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燃える兄貴とやる夫!

ストーリーの盛り上がりが強いやる夫スレを中心に纏めていきます。

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秘封霖倶楽部 きさらぎ駅【やる夫達は現代入りするようです。  元ネタ小説】










【きさらぎ駅】


とある女性が立てたスレで、自分は「きさらぎ駅」という無名の駅に居るという内容の物。


ある程度探索しては、洞窟を過ぎようとした所で男に車に乗せられ


そこから、>>1の書き込みは一切書かれておらず、その駅が何なのかはまだ闇の中である。




夏休みの8月終わり近く、猛暑に差し掛かったこのごろ、紫から唐突な帰省命令が出た。


なんでも、魔理沙や霊夢が退屈すぎて異変を起こしてしまった程であるからだそうだ。


幻想郷には、あまり話ができる相手というものが居ないのだろうか。いや、僕以外にも居ると思うのだが、


『あなたの代わりになる人は居ませんのよ』


と、紫は言っていた為、僕は渋々帰省することになった。


だが、恐らく理由は他にあるに違いない。


秘封倶楽部には、報告ができない状態なので報告する必要は無いだろう。


問題は麻耶だ。この子を幻想郷の中に入れても良いものなのかと深く考えたくなる。


だが、だからと言って暫くの間ずっと部屋にお留守番するのも心配で仕方が無い。


出会った当初は、カラスに肉を千切られる程衰弱していた少女だ。放っておいたらまた瀕死の状態になるのではないのか


『……?』


『……』


今でこそ、血色が良い状態でブラックジャックを読んでいるが、やはり脳裏に浮かぶのは 血まみれで衰弱している当初に見た姿だ。


『香霖。おでかけ?』


『…ああ。わけあって故郷に帰宅する事になった。』


ならば、僕はこうする他あるまい




『一緒に来るかい?』







紫が用意した電車に乗り、麻耶と二人で電車に乗る。


麻耶は、僕が貸した四畳半神話体系を読み、そして眠っている。


結界を通るとき、猛烈な違和感を抱く事が多々あり、それが酔いを招くことがある。


この電車は必然的に幻想郷の結界を超え、普通の人間は結界の影響でなんらかの混乱を招く。


ならば、意識を先に遠ざけるのが賢い選択だ。


麻耶は案の定、幻想郷に辿り着くまで起きなかった。




エピローグだが、今から話す幻想郷での出来事もただのエピローグである。


だから幻想郷での出来事は全てダイジェストで話そうと思う。




まず、僕の姿を見るなり久しぶりに出会う親しい親戚に出会う姪のような反応をした霊夢と魔理沙。


そして、麻耶を見て固まる霊夢と魔理沙。


『誰との子供よ!!』と騒ぐ霊夢と魔理沙とアリスと慧音


説明して更にややこしくなったり、別の話題になったりしたが、なんとか理解をしてくれた4人


その間、ずっと怯えていた麻耶


香霖堂にたどり着き、興味津々の様子で店内を探索する麻耶


その間に、外との世界の事情を話す僕と魔理沙と霊夢


外の世界の話を聞いて、理解を得ない魔理沙。少し羨ましがる霊夢


そして、僕の使ってる携帯や電化製品やゲームを見て悶える早苗さん。


『私も連れてってください店主さん!!結婚しても良いですから!!』


討論になる霊夢と魔理沙と早苗さん。


静かになり、僕の膝の上に座って眠る麻耶


恨めしそうにその様子を睨み付ける魔理沙






とまあ、大体こんな感じだ。


まぁ、滞在期間は1日である為、帰省というよりお立ち寄りに近い。


紫には、このまま外の世界にまた行くか、ずっと幻想郷に居るかと選ばされているが。


さて、晩に差し掛かった頃、麻耶の寝息と共に空間が引き裂かれる音が聞こえた。


『ごきげんよう。店主さん』


『…まぁ、来るとは思っていたさ。』


僕がもっとも苦手とする大妖怪様が、先ほどまで魔理沙が無理やり座っていた僕の膝に腰掛けた。


『どうですか?久々の幻想郷の世界は。』


『向こうの世界に行ってからは、この幻想郷がいかにど田舎だという事か実感させられたよ。』


『酷い事言うわねえ』


そう言いながら、紫はクスクスと微笑む


『…それで?どうして僕を幻想郷にそれも一日だけ帰省命令を出したんだ?』


『そうね。単刀直入に言うわ。霖之助さん、貴方外の世界でどれほどの妖怪を見たかしら』


『0だ』


そういうと、紫は暫く黙り込んだ後、ふむんと鼻を鳴らした。


『ごめんなさい。妖怪とはちょっと違うわね。霖之助さん。外の世界では妖怪は妖怪と呼ばれていないわ』


『……は?』


『そうね、人間じゃ無くなった人間はどれくらい居ましたか?』


僕は、その質問に答えることができなかった。


そうだ、僕は彼女に監視されていることがあったのだ。


ならば、彼女もある程度は知っているはずだ。


『………』


『それともう一つ』


紫は、また言った。


『一時期、秘封倶楽部ごと貴方の存在が全く把握できない事がありましたが、その時貴方は何をしていたのでしょうか?』


『………』


まぁ、一応予想はしていたさ。


紫が、以前僕が体験したあの時の事を見逃すわけが無い。


だが、あれは紫の手にも余る事件であり、悪夢であり


そして、幻想郷を覆えるほどの大きな怪異であった。









『いやぁ~っ!それにしても東京って良いわね!!楽しかった~!!』


僕たち秘封倶楽部は、今合宿という名の遊びを繰り広げている。


夏休みを利用して、東京へ活動というなの三人デートを行うと言ったものだ。


ネズミの王国で遊んで、ネズミの海で遊んで、


ネズミやら猫やらのコスプレをする街で買いものしたりと、本当に遊んでばかりである。


麻耶も行きたがっていたが、予算の都合上、連れて行くことができなかった。


帰ったらいじけてるだろうな。お土産は多く買ってきたが、それで機嫌が治るとも思えない。


また、バイト代が出たときに麻耶と二人で旅行する計画を立てよう。それで機嫌を治してもらえれば万々歳だ。


ちなみに、僕は王国のお土産が主のお土産だが、秘封倶楽部の二人の買った物


蓮子は秋葉原に置いてあって怪しいオカルト本・雑誌  全30巻


メリーは大量のBL本だ。


『長谷田さんへのお土産です!』と、メリーは断固主張していたが、それはそれで痛いと感じる。


そもそもお前はそれほど長谷田と親しくは無いだろう。新聞部の部長様で何度も秘封倶楽部の痴態を一枚の紙にさらし続けていたではないか。


そんな奴のお土産を買う奴の気が知れないな。


『それにしても蓮子、お前よくそんなに本買える金あったな』


『うんにゃ?生徒会長様の薫子に霖くんの生着替え写真をちらつかせたら、小切手で10万出してくれたわよ?』


僕は今、天からこいつを殴る権利を手に入れた。


頭上に拳骨を浴びせようと手を大きく振り上げる…


≪次はぁー、京都、京都に止まります≫


『あっ次で降りるわよ』


振り下ろす前に、駅が着くべき所へと着いた。


『…どうしたのよ?霖くん』


『なんでもない。僕は君に紙の鉄槌を振り下ろそうとしただけだよ。』


『何意味不明な事言ってるのよ。とっとと行くわよ』


蓮子の言葉で、メリーも僕も新幹線から降りた。


ここで、僕は紙の鉄槌を蓮子に与えられぬまま、僕たちは分かれて帰っていった。








そして後日、夏休みまで残り半月を切った所だ。


小遣い稼ぎの為にやっていたバイトを終え、僕は電車に乗り込むことにした。


『やっほー、霖くん』


そこには蓮子が居たので、僕は次に来る電車を待つことにした。


『ちょっとちょっとちょっと!!乗り込まないの!?』


蓮子は、慌てて僕を追いかけるように下車した。


『降りて良いのか?到着駅では無いのだろう?』


『そうだけど…、霖くんが乗ろうとしなかったから、ビックリしちゃったからじゃない』


勝手に僕のせいにするなよ。


『…どこに行く予定だったんだ?』


『ん?呪いの駅まで』


『そうか、まぁ頑張ってくれ。僕は帰りに卵を買うのを忘れていたから歩いて帰ることにするよ。』


踵を返すと、蓮子は『おい!』と言いながら僕の手をつかんだ。


『霖くんも一緒に来るに決まってるでしょ!秘封倶楽部の部員なんだから』


『部員にも拒否権というものがある。そこでだ、その呪いの駅に行くまでの道のりを教えてくれ。』


『良いわよ。まず、終点と始点を行ったり来たりしながら…』


『ごめんな。僕、三日後には返さなくちゃいけないDVDがあるから今日は行けないや。』


『そんなのは三日後に返しなさい!!私なんかつい忘れちゃって延滞料金払うのが常識なんだから!!』


ははは。こいつは人の上に絶対立ってはいけない人間だ。


こいつの上に立たれたら、僕は間違いなく不運という名の糞が降りかかってくる。


『メリーだって一緒にやってるんだから!!朝の6時から今までずっと…あっ、メリィィィイイイイイイイ!!!!!』


蓮子は、去っていった電車の方向を見ながら叫んでいた。


恐らく、今は小さくなっている電車の中にメリーが一人座っているのだろう、終点までどんぶらこと。








『むにゃむにゃ…あー、霖くんと蓮子ちゃんだぁ。』


終点に着いたのは、僕たちが電車に乗ってから二時間後の事だった。


僕が乗ろうとしていた駅は、始点から結構近い場所であるために終点が長かったのだ。


『はぁぁ…。もう夕方が近い時間じゃない。…まぁ良いか。夏休みだし。』


『蓮子、お前夏休みが始まってから毎日こんな無駄な時間を過ごしているのか?』


『うるさいわねー。良いじゃない夏休みなんだから。』


お前は今すぐ夏休みの少ない社会人に全力で土下座をする必要があるだろう。


もしくは、少ない休日で働きづめしている親たちに泣きながら説教される事も大事だ。


『とにかく、今日はもう帰るわよ。あっちのホームに行きましょう。』


秘封倶楽部の部長さんについて行き、僕たちは帰るべき駅へと向かって行った。




電車に乗り込む時には、もう外は暗くなり始めていた。


メリーは二度目に入っており、


蓮子もウツラウツラと船を漕いでいる。


そういえばこいつら、朝の6時から乗っていると言っていたな。


随分な早起きな事だ。今眠くなっても仕方ない。


元の駅に戻るまで二時間、いやもっと長いかもしれない。


僕は、駅につくまで外の風景を見


見ながら


見ぃ





……………


あっ


ヤバっ…


………


……
















ゴトン!!!!と、大きな振動と


なんとも言えない吐き気と酔いで、目が覚めた。


『…んみゃぁ?』


蓮子も目を覚ましていた。


寝顔が間抜けで、涎を垂らしている。


今、この電車には僕と蓮子とメリー以外は誰も乗っていない。


窓の外を見てみると、全く見た事の無い風景


時間は、23時


『……おい嘘だろ?寝過ごしたのか!?』


いや、そもそもあれから5時間以上眠っていたというのが驚きだ。普通なら終点についてもおかしくない。


……まさか、乗る駅を間違えていたのか?


『あれぇ?ここ、どこですかぁ?』


メリーの声で、蓮子も辺りを見渡す


『……何よここ』


そんなの、俺が聞きたいくらいだがな。


≪終点 きさらぎ駅  きさらぎ駅≫


だが、終点という限り、ここはどこかの駅なのだろう。問題は


ここから先、この駅に帰りの電車が来るかどうかと言う事だ。






電車から降りたとき、僕は駅の切符売り場にまで足を早ませた。


次に来る電車を速やかに確認するためである。


『おいおい嘘だろ…?』


時刻表を見る限り、帰りの電車は10時が最終らしい。


つまり、朝までこの村に滞在しなくてはならないのだ。


『電話ボックス…は、あるかしら?メリー?』


『なぜ電話ボッ…おい、ここは携帯の電波が通らないみたいだな』


携帯電話をのぞくと、全くアンテナが立っていない。代わりに”圏外”という言葉が表示されている。


『…しっかし、ここはどこなのかしらねぇ。暗くてよく見えないわ』


『懐中電灯くらいあれば良いのだが…』


電車も、もうすでに行ってしまった。今はここに居るしかない。


『……それで』


『ん?』


僕の今の表情は、とてつもなく暗い表情をしているに違いない。


そんな表情を蓮子に見せ付けるように、僕は蓮子の方に向いた。


『これから、どうするつもりだ?』


さすがに、この蚊が飛び回る季節に野宿するのは御免蒙りたい。


奴らに刺されまくれば、死ぬ可能性だってあるからだ。


更に、辺りを見渡しても屋敷も小屋もどこも見えないのだ。


『…野宿が嫌なら、宿屋を探すしか無いわよねぇ…』


蓮子が、ちょっと面白くなってきたという表情をしながら遠くを見た。


辺りに家や建築物は無くとも、古くなった電柱や錆びて見えなくなった標識、


更には道の向こう側にトンネルがあるのだ。


だが、問題はそのトンネルは電気が通っていないのか、完全に真っ暗なのだ。


『ひぃぇぇ…』


その不気味さから、蓮子は僕の背中にしっかりしがみつくように隠れてしまった。


『…大丈夫だよ。トンネルだから一本道のはずさ。壁に沿って走り抜ければすぐ抜けられる。』


『いざとなれば、トンネルで寝泊りすれば良い事だしね!!』


おい、それは御免だぞ蓮子。トンネルのような不摂生で妖気の溜まりやすい場所に寝泊りするというのなら、僕は野宿を選ぶ。


いや、そもそもトンネルは出口と入り口が開きっぱなしだ。虫や動物が入り放題じゃないか。


『寝泊りは却下だ却下。』


『何よぉ、冗談で言っただけなのに』


蓮子はそう唇を尖らせながら、トンネルの方へと向かって行った。


蓮子についていくように、僕もトンネルに向かう。メリーは僕の服にしがみつきながら歩いていった。







そういえば以前、心霊トンネルを調査した事があった。


トンネルに現る妖怪に出会うと、別の世界に連れていかれるという、他愛の無い普通の都市伝説。


まぁ、ただのイタズラという結果でその事件は幕を下ろしたのだが





今回は本当に何も起こらない、普通のトンネルをくぐっていった。


『……よっ良かったですぅ~。幽霊とか出てこなくて…』


『思ったより普通のトンネルだったな。なんの気配も感じさせなかったよ。』


『………』


通り抜けた際、蓮子だけが不機嫌そうに見えた。


『おい、どうした蓮子…』


『別に、つまんない結果になったってだけよ。後、メリー!!』


『ひゃい!?』


『幽霊が出てこなくて良かったとはどういう失言かしら!?秘封倶楽部にとっては問題発言よ!?』


こんな元気に爛々としている奴らに出くわしたくないのだろうよ、幽霊も。


『だが、幽霊なんてものはどうでも良いだろう。見ろ、トンネル抜けたらちらほら家があるよ』


『あら、本当だわ。じゃぁ泊めてくれる場所を各自、探すわよ!!』


ひとまず解散か。勇気のある奴だ。


『それじゃぁ、後はよろしく頼むよ蓮子』


『ガッテンだ!!』


蓮子はそう言って、家の方へと走っていった。


『それじゃぁ、僕たちも行こうか。』


『はい。』


僕とメリーは、腕を組みながら先に進んでいく。


どこかに条件の良い宿が無いかと視界と足を動かしながら。


しばらく歩いていると、蓮子が帰ってきた。


『ちょっと!!何で私が一人で探さなくちゃいけないのよ!!!』


『え?蓮子が勝手に言ったんじゃないか?』


『か弱い乙女を一人で行かせるつもり!?私に何かあったら責任取ってくれるの!?』


か弱い乙女?


僕は、か弱い乙女がどこに居るのか探すべく、首を動かした。


『霖くぅ~ん?この私を馬鹿にするなんて、良い度胸じゃぁなぁぁい?』


『すまないが、君の言うか弱い乙女がどこに居るのか検討も着かないよ。』


『霖くん、チーム分けするわよ。アンタは一人で探索しなさい』


蓮子はそう言って、僕からメリーを引き剥がした。


『ああっ…』


メリーは名残惜しそうに最後まで引き剥がされるまで僕の袖をつかんでいた。


『もう良いわ、この際はもう、私たちが居る村を探索しましょう。』


…この、幻想郷の田舎よりも何も無い所でか?


『そもそも、私は呪いの駅を探すために今日儀式をしたのだから、この村がその呪いの駅の可能性があるわ。』


『ああ、そういえばそうだったな。』


『というわけでー!今日は深夜の良い時間になるまでこの村を探索することに決定しました!!』


『深夜の良い時間…ねぇ。』


『丁度、ビデオカメラも二つあるわ。』


蓮子はそういって、僕にビデオカメラを渡した。


『んじゃ、これ霖くんの分ね。一人だけどがんばって頂戴。』


ほう、そのおしおきはまだ残っていたのか。


まぁ、僕なら一人で大丈夫だろうが、別行動すると蓮子とメリーの監視が難しくなる。


が、この村には妖気を全く感じない。幻想郷に流れ着く事も無いだろう。


いやむしろ、この村は幻想郷からは干渉できない空気が漂っている。それが何なのかは分からないが、幻想郷が触れる事もできない空気が。


…何か、今まで感じなかった違和感を今、落ち着いてきた今に感じ始めていた。ような気がする


『ええー…霖くんと一緒じゃ無いんですかぁ?』


『そうよ、最近ちょーっと生意気になったから、少しでも怖い思いさせないと…ね♪』


『聞こえてるぞ墨シルクハット君』


『もう、怪異を一つでも撮れてなかったら許さないんだからねっ!!』


そういって蓮子は、メリーを引きずって村の方へと歩いていった。


全く、生意気になってきたのはどっちの方なんだか。


…さて、このビデオカメラだが、なかなか良いカメラだと言うことが分かった。


僕の能力で見える用途が、いつものより多いのだ。まさかこれ一台でカメラやビデオはおろか、手ブレ補正効果もあるとは。


そして一番役に立ちそうなのが、赤外線モードというものだ。


これを使えば、どんな暗闇の中でもはっきりと物が見えるという。まさにこの暗闇の為にあるようなものだ。


さっそくつけてみれば、成程。肉眼で見るよりも辺りがはっきり見える。


これを僕の目にした方がサクサク物事が進みそうだ。さて、探索を始めようかな。






特にこれといって面白いものは無かった。


強いて言うなら、昭和時代の雑誌がかなり多く捨てられていた事と、人が全く居ない事と


遠くから太鼓の音と鈴の音が聞こえるって事くらいだろうか。


太鼓の音がどこなのか、僕は音のする方向を頼りに移動したが、太鼓の音は一向に近づかなかった。


しかし、夜はこんなにも長いことを知った。いつもは家で眠っているからか、最近は夜が短く感じるのだ。


時計を確認すると、すでに日は跨って翌日になっていた。僕はため息を吐きながら太鼓の音がする方向に移動する。


音の方向は分かるのだが、どうしても音が近づいてくる気配が全く無い。


気づいたら、僕は森の中に居た。


横に並ぶ杉の木をとおり、大きな石に乗り、降り、深いところへと歩いていく。


虫は夜行性が多いと聞く。天敵が昼に行動するものの方が多いからだ。


動物にも夜行性が居る。餌が夜行性の者も多かったりするからだ。


だが、不思議にもこの森には虫や動物といったものが全く存在しない。


せいぜいキノコが道に生えてるくらいで、石をどかしても、土を蹴っても虫が全く居ないのだ。


不思議な村だ。恐らくここで、何か薬品が捨てられたか妙な放射能が放出されている可能性がある。


…この村がだんだんと危険に感じてきた。変な想像は止めたほうが良いだろう。


しかし、本当に木ばかりだ。


森だから当たり前なのだろうが、植物以外の生き物が全く見当たらない。


そんな味気ない森の中で、僕は箱を見つけた。


森に無造作に捨てられたような、ただのゴミのような木箱。


何故だか、この箱に微妙な妖気を感じ、少し興味が湧いたからだ。


『さて、』


箱を広い、満遍なく6面 素材 色全てをビデオカメラに収める。


十分だと実感したときに、僕は箱に手をかけた。


『んっ…』


箱を開けると、また中には箱があった。


箱根細工では無いようだ。コトリバコの心配は無い。


『しかし…また小さな箱だ』


その小さな箱にも手をかけて、蓋を開けてみる。


中には、何も入っていなかった。


『うわっ…』


だが、箱の内側には不規則な並びの漢字がビッシリと書かれていた。


その文字はどれも見たこと無く、そもそも漢字かどうか怪しい文字であり不気味なので、僕は箱を放り投げてしまった。


『………』


だが、箱が不気味だから投げたのでは無く、


箱を開けたことで、中に入っていたであろう”謎の空気”が放出されたためだ。


生暖かい空気が、箱の中から放たれ、僕の頬を掠ったのだ。


『………?』


しかし、何だろうかこの静けさは。


さっきから探索してから感じていることだが、本当にこの村には生き物が居ないようだ。


カラスの鳴く声や虫の声、鳥や他の人間の足音さえも聞こえない。


自分の足音だけが辺りに響く…。


『……本当に、この村は一体何なんだ?』


歩けど歩けど、光も建物も見えない。


もし、このビデオテープの電池が切れてしまえば、僕は本当に途方に暮れてしまう。


『……はぁ。』


少し、ここで休もう。


僕は、ビデオを覗きながらその場に座り込んだ。最早カメラは僕の目となりつつある。


休憩している間はビデオカメラは消したほうが良いかな。と思い僕は暗視スコープを消し、電源を消した。


すると、辺りは本当に真っ暗で、自分が座ってる木しか見えなかった。


更にこの無音の中では、まるで牢屋に入れられたみたいだ。


『まぁ、囚われ人としてはおかしくない判断かな。』


そう笑って、僕は目の前の木だらけの風景を見た。



目の前の木の横に女の顔が縦にならんでいた。




気づいたら僕は走っていた。


間違いなく僕は、この森の中で一人だったはずの場所に、女の顔が並んでいた。


判断できたのは、視界だけ。聴覚も気配も全く感じなかったのだ。


もしかして、自分は難聴になったのではと感じたくらいだった。


探検なんか放ったらかしで、この森を脱出することだけを考えていた。


だが、走っても走っても出口が見えない。


おかしい、せめて建物のある村が見えてもおかしくない筈だ。


そこまで深く、森の中を探検したわけでも無いはずだ。


だから、走ればいずれ出れる筈だ。筈なのだ。


とにかく僕は、足を動かした。


出口がある所まで、とにかく前へ、前へと。


そこで、出口らしき場所にまでたどり着くことができた。


その出口には、一つの寺があった。


太鼓と鈴の音が鳴っている場所では無いようだが、ちゃんと整っている施設のようだった。


中でお経が聞こえる。人が居るのは明らかだ。


とにかく僕は、安全な場所に行きたいが為に寺の中へと入っていった。


扉を開けると、より一層お経の声が大きくなった。


内部は、博麗の神社とは大分違うようだ。


至ってシンプルな作りになっているようで、廊下と扉といった具合の内装だ。


『あの、すみません』


一つ一つ扉を開けていく。


和室と和室と仏壇…、中は至って普通の寺のようだ。


だが、気のせいだろうか、扉を開けていくごとにお経の声が大きくなっている。


お経の声の発生源であろう部屋は、一番奥の扉に続く部屋の奥の扉にあるようだ。


その扉には、大量の札と時が経って土の色となった血液と、まだ新鮮で粘着力がある血液が付着していた。


この時点で相当警戒していた僕だが、この村で生物…人間が居るとしたらここしか無い。


念のため、ビデオカメラを回しては居る。


扉に手をかける。更にお経の声が大きくなる。


本当に開けても良いのかは分からない。だが、


僕の体は、操られるかのように、扉を開けようとしていた。


そもそも、全てがおかしかった。


走った時も、まるでこの場所が分かっていたかのように僕はこの寺の方向へと走った。


寺を見つけたとき、安全じゃない場所だと微塵も思わなかった。


これは、どう考えても不自然な事だ。


そう気づくには、早すぎたか遅すぎたか、それとも必然だったのか


最早、扉を開ける僕を止めるものは誰も居なかった。


扉を開けて中が見えたとき、お経の声が更に一層大きくなった。


中では全身に文字の書かれたお坊さんが僕を見ながらお経を唱えていた。


それも一人じゃない。部屋に何人も居て、全員が僕を見ながらお経を唱えているのだ。


瞳孔が大きく、目が真っ黒でまるで目が無いようだった。


いや、よく見ると本当に眼球は無かった。開いた瞼の中は空っぽだった。


めくらの坊さんが、分からぬ方向で僕の方を見ていた。


僕は、何故かその場から動けなかった。


『………っ』


何も語れなかった。


坊主は何も気づかず、何も見ず、ただお経を読んでいる。


よく見ると、耳も潰れていた。


一体こいつらは、何を思ってお経を読んでいるのか、分からなかった。分からなかったが、


僕は一刻も早くこの場から立ち去りたかった。だが、足が思うように動かない。


がたん


部屋の中央で、何かが飛び跳ねた。


カメラの暗視スコープを見ていなかったからか、分からなかった。


がたん


また、何かが飛びはめた。


飛び跳ねたのは、女性だ。


がたん


その女性の顔を、よく見たら


がたん


口以外の顔全てが削られたようにぐちゃぐちゃになっていた。






『ひゃひゃはやひゃひゃははははひゃひゃははひゃひゃ!!!!!!!!!!!!!』


女が笑い出したと共に、僕の足は動いた。


この場所は駄目だ。これ以上この村にとどまっては駄目だ。


そう実感して、僕は突進するかの如く寺から飛び出していった。





階段を下りると、蓮子と別れたあの村にたどり着いていた。


どうやら、寺はこの村との近くにあったようだ。


とにかく今は、蓮子とメリーを探そう。


この村に留まるのは危険だ。撮る物も撮ってある。


とりあえず今は、この村から離れて帰らなければならない。


今はどこか、建物の中に居るはずだ。


僕は、一軒一軒家を回っていった。


妙な事に、回った家全てが空き家で廃屋なのだ。


家の中には、錆びた家財道具と虫に食われた服などが広げられていた。


だが問題は、どこにも蓮子とメリーが居ないことだ。


建物の中には居ないのかもしれない。そう思った僕は、別の場所を探すことにする。


その為に建物の外に出てみると、トンネルの入り口の方に蓮子とメリーが居た。


彼女らを見つけて、安堵した僕は彼女らの元へと駆け寄った。


『蓮子!!メリー!!』


『うっうわぁああ!!』


僕の声かけにより、蓮子とメリーは驚き尻餅をついた。


『あっあれ?霖くん…?』


メリーが、不穏そうに僕を見ている。


『蓮子、メリー、ここは危険だ。二時間ほど回ったが不可解なものも撮れた。とにかくここから離れよう。』


『……霖くん、何言ってるのよ』


蓮子が、疑問を持った声で問いかける。


『不可解な映像なら映っている。これを見せれば証明する事はできるが、とにかく今はここから離れる事が先決だ。だから早く』


『だって、あんたさっきあっちに行ったじゃない!』


そう言って蓮子は、森の方向へと指した。


『…は?いやだから森にはさっき行ったよ。そこで不可解な物を見た。だからー…』


『嘘!?だって霖くんが森に向かってからまだ数分も経ってないわよ!?なのにどうしてあっち側から来たのよ!?』


数分も経っていない?


そんな馬鹿な筈が…だって、時間を見れば…


……なんて事だ。


『二時間…時間が遡っている…』


『…はい?どういうことよ、霖くん…?』


『………』


何が起こっている?


まるで、次元を三つくらい飛ばされたかのような感覚だ。


三次元で地に足をつけているにも関わらず、空間では無く時間を歩いてきたかのようだ。


『…そうだ、ビデオ…ビデオを見れば!』


僕は、すぐさま保存ファイルを確認した。


そこにはバッチリ、僕が撮った動画が確認できた。


『ほら!顔が!顔が並んでいる所が…これが……』


『………』


蓮子は、じっとビデオカメラの映像を見る。


次に、寺の中の映像を見せた。


だが、その映像だけはノイズが酷くて見れたものでは無かった。


『………』


『映っていただろう?蓮子。僕は確かに、森の中を探検したんだ。嘘では無いんだ。』


蓮子は、ビデオカメラを止めて、僕に渡した


『……蓮子?』


『…霖くん。本当に…霖くん?』


『ああ。だから何度も言っている…、……?』


いや、待て、だとすると


『じゃぁ、さっき森の中に入っていった霖くんは…?』


…そうだ。


だとすれば、先ほど別れた僕は恐らく過去の僕だ。


この時間で、未来から遡った僕が何も知らない僕に出会うとどうなるだろうか。


『……!』


僕は、すぐに過去の僕を追いかけた。


『ちょっと霖くん!?待って!!二人にしないで!!』


今、この時に僕が過去の僕に撤退命令を出せば、この事は無かった事にできるかもしれない。


そんな希望が、ちょっとした欲望が僕の中にあった。


僕はすぐさま森の中へと入っていった。






森の中は、相変わらず僕の足音以外何も響かない。


だが、今度は違うはずだ。ここには過去の僕が居るはずだ。


だから、耳を済ませればもう一つの足音が聞こえるはずだ。


僕は、耳を澄まして前へ前へ進んでいった。


『――――』


『―――』


『―』


『!』


聞こえた。微かだが足音が聞こえる。


この先にもう一人の僕が居るはずだ。今ならまだ間に合う。


僕は足音のする方へと足を速めた。


人間の気配がする、この先だ。


『ちょっと待て!ちょっと待ってくれ!!』


足音のした方向へと、声を出した。


そして、気配はだんだんと大きくなる。


あと50メートル。ようやく姿かたちが見えるようになる。


『驚くかもしれないが、僕は怪しい人間じゃない!僕は未来から来た…』


そこで見たもう一人の人間は、


メリーだった。しかも、体に少し泥がついている。


『…メ、メリー?どうしてここに…』


今は、二時間前では無かった…のか?


そんなこと思っていると、メリーは僕を見つめ、目を閏わせていた


『りっ霖…くん…』


メリーは、僕に抱きつき ワンワン泣いていた。


『怖かった…怖かったよぉ~!もうずっと、ずっと一人だったからぁ…!!』


『……』


いや、お前は…


さっき、蓮子と一緒に居たんじゃなかったのか?とは言えなかった。


これ以上何か言ってしまえば、更に恐怖から自我を崩壊させそうだったからだ。


『…メリー、ずっと一人…?ということは…蓮子は?』


『うぅ…分かんない。もう4時間も迷子になってたから…』


4時間か。…4時間!?


『メリー、お前…途中で何か変な物を見なかったか?』


『ふぇ?』


『なんでも良い。何か小さな箱とか、お寺とか…』


『…分かんないよぉ。真っ暗だし、ずっと森の中に居たんだよぉ…?』


つまり、ビデオカメラは蓮子が持っているということだ。


時間を見れば、メリーは未来から遡ってきたと思ったほうが妥当だろう。


PM:11時23分


4時間経っているならば、午前3時になっていなければおかしい。


この村は…時空が歪んでいる。


今、そう結論するには早いかもしれないが、証拠となるものは出揃った。


後、何かがあれば…あれば……


『…そうだ、寺だ。寺に向かおう。』


『…お寺?』


『ああ、寺だ。先ほど逃げ出してしまったが、やはりあの場所に何かがあると考えたほうが妥当だ。』


だが問題は、僕自身は二度とあそこに近寄りたくないということだ。


しかし、手がかりになるものと言ったらあそこしか無い。


メリーは、僕にしがみついたまま離さない。


もう二度と、僕から離れないと決めているようだ。


ほぼ抱きしめられた状態で、僕は先ほどの寺へと向かった。







『……霖くん?』


後ろから、声をかけられた。


それは、頬はこけてやつれてはいるが、顔つきや服装から蓮子だという事が分かった。


『霖くん…やっぱり霖くんよね…!!』


蓮子はフラフラの足取りで僕の方へと向かう。


『蓮子ちゃん!?』


あまりの変わりように、メリーは驚きを隠せないでいた。


『良かった…やっと…やっと会えた…やっと…会えたよぉ…』


倒れそうになった蓮子を、僕は急いで抱きかかえた。


『蓮子、大丈夫か?蓮子!?』


『えへへ…、霖くんの声…久しぶりだなぁ…』


一体、この蓮子は何時間後…いや、何日後から来た蓮子なのだろうか。


『もう…もう、離さないわよ。離さないんだから…』


蓮子の抱きしめ方が、とても弱弱しい。


少なくとも、二日は彷徨っていたに違いないだろう。


『…ああ、大丈夫だ蓮子。これからは僕が守る…』


僕がそう言うと、蓮子はより一層僕の服を握り締め、そして


完全に手を離した。


『……蓮子?』


顔を確認すると、涙が頬を伝っていた。


そして、脈を確認すると…


『そんな…蓮子…ちゃん……!』


蓮子は、絶命していた。


僕が発した言葉によって、安心して絶命してしまったのだ。


僕が、僕が殺したのか?


僕が、蓮子を…


『あ…ああ……』


メリーは、蓮子の死体にしがみついて泣いている。


僕は、この状況に何も言う事ができなかった。



時空の歪みとは、人を殺すことを今知った。


だと、だとすれば…僕は…


『あっ』


向こうに、人影が見えた。


僕だ。


僕が、ビデオカメラを回して森を探索している。


『おい、待て、待ってくれ、ちょっと!!そこのお前!!!!』


僕が叫ぶと、そこに居る僕はビクリと反応してこちらを見た。


『今すぐ戻れ!!この村は危険だ!!取り返しのつかない事になる前に!!早く!!』


僕は僕に叫んだ。すると、僕は察したのか、走って僕から逃げていった。


僕のことは僕が良く知っている。あのままならば、僕はとっくに逃げ出せているのだろう。


後は、僕たちだ。


僕たちが、この村から脱出しなくてはならない。


全て未来の事無く、今この時間で脱出すれば、全ては無かった事になり、元の生活に戻る筈だ。


『きゃぁぁあああああ!!!』


メリーの声が聞こえた。


急いで振り返ると、そこにはメリーが二人居た。


一人は、先ほどまで一緒に居たメリーで、向こうに居るのが…


大きく目を開かせて、血まみれでこっちを見ているメリーだった。


手には片手サイズの鎌を持っている。


『やだぁ!!やだぁああ!!霖くん!!霖くん!!!』


メリーは、急いで僕の元へと駆けつけた。


血まみれの方のメリーは、ゆっくりとこっちに近づいてくる。


今すぐにでも走って逃げ出さなければならない。だが、


ここで無闇に逃げ出せば、また未知の道に時間と共に迷ってしまう。


メリーは、腕時計で時間を確認し、ニヤリと笑った。


『お腹空いた』


そういうと、蓮子の死体に歩み寄り、蓮子の脳天に鎌を振り下ろした。


ギコギコと、頭蓋骨を削って割る音が聞こえる。


蓮子の脳天が割れ、中から脳みそと肉の欠片がボトボトと落ちる。


血まみれのメリーは体を切っては千切っては口に運んでいる。


まるで欲するかのように、蓮子の体を貪り食っている。


『いや…いや…』


メリーは、目の前の光景を完全に拒絶している。


逃げろ、これは本当に逃げなければならない。


『メリー…走るぞ…!』


その声と共に、僕は直ぐに走った。


メリーは、一瞬足がすくんで動けなかったが、


『早く!』という僕の言葉で、ようやく足が動かせるようになったようだ。


幸い、血まみれのメリーは追いかけてくる様子は無い。


このまま、村の方まで逃げよう。その時だった。


『きゃぁ!!』


数十メートル走った辺りで、蓮子にぶつかった。


『ちょっと、何よ霖くん!そんなにあわてて!』


『………!』


生きている蓮子が、そこに居た。


死んでいない。ちゃんと生きている


『もしかして、直ぐに怖気ついたとか?霖くんも大した事ないわね~?』


この余裕から見ると、まだ時間が経っていない方の蓮子であるに違いない。


『蓮子…蓮子ちゃん…!』


メリーは、感激のあまり涙を流し、蓮子を見つめている。


『え…メリー?』


蓮子は、メリーを見て不穏な表情をしていた。


その表情にメリーは疑問を抱き、『え?』とつぶやいた


『待ってよ~、蓮子ちゃん~』


蓮子の後ろから、もう一人メリーが駆け寄ってきた。


今、この場にメリーが二人居る状態になった。


『霖くんが心配なのは分かりますけど、そんな急いで…あっあれ?』


メリーも、この状況には疑問を感じたようで、混乱したような顔をしていた。


僕の腕にしがみついていたメリーは、もう一人のメリーを見て表情が固まっていた


『あ……あ……!』


メリーの足がガクガクと震えている。


『あああああああああぁぁぁぁぁ……』


メリーは、その場で足を崩し、その場に倒れた。


『えっ!?大丈夫なの!?その子!?』


メリーは、失神していた。


『どうして…どうして私が二人居るんですか…?』


こちらのメリーも、変に怯えた表情になった。


『答えなさい…霖くん。一体、この村で何が起こってるの?』


蓮子が、いつに増しても真剣な表情になっている。


それは当然だ。今、とんでもない怪現象を実感しているのだ僕たちは。


『…僕が考えうる限りでは、この村の時空が歪んでいる…事だ。』


『時空が、歪んでいる…?』


『ああ。メリーだけじゃない。蓮子や、僕だって複数人居たんだ。恐らく、全ての時間がこの空間にあり、時間が進むにつれて、僕たちが未来から残されたり飛んだりしちえるのだ。』


その中でも、僕たちは過去の人間であり、未来では三日から数週間先の僕たちも居るに違いない。


『だから、今、僕たちが未来側の人間にならないうちに、この村から脱出を…おい、後ろぉ!!!』


『えっ』


『ぐびゅっ!』


瞬間、蓮子とメリーは刺された。


恐らく、未来に来たであろう自分たちに、


未来の蓮子とメリーは、目が空ろでただお腹を空かせていた事だけが分かるといった具合だ。


『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…』


まるでうわごとのように、蓮子とメリーはそういって、過去の自分を殺していた。


何故、過去の自分を殺して未来の自分が消えないのか、それが何か分からなかったが、そんなことはどうでも良かった。


僕たちも逃げなければ殺される。それは彼女たちの目を見れば明らかだった。


『あああ…あああああああああああああぁぁぁぁあ!!』


僕は、メリーを抱えて全力疾走していた。


後ろから蓮子とメリーが無表情で追いかけてきていた。


『ごめんなさいごめんなさい』とつぶやきながら、一心不乱に僕に追いかけてきていた。


彼女たちは何日この村に滞在しているのだろうか、


先ほどの肉を食べるメリーよりも長く滞在しているに違いない。口元を見れば、乾いた血が何層にも重なっている。


自分とメリーと僕の肉を食べ続けて生きながらえていたのだ。彼女たちは。


恐らく、何故過去の自分を殺しても自分が消えないのか、それが疑問に思っていたに違いない。そして、自己解決したに違いない。


とにかく逃げる、僕も逃げるために走った。メリーを落とさないように走った。


途中でようやく見えなくなり、追いかけてくる足跡も聞こえなくなった。


彼女たちが別の時間に飛ばされたのか、それとも僕たちが飛ばされたのか、


それはまだ分からなかったが、とにかく助かった事だけが分かった。


今は、とにかくあの寺を目指さなければならない。


この森はどこまで続くのだろう。寺まであと、どのくらいかかるのだろう。


『ちょっと待て!お前!!』


遠くで、声が聞こえた。


僕の声だった。


『今すぐ引き返せ!!今ならまだ間に合う!!この村は危険だ、いかれている、時空が歪んでいるんだ!!時間に囚われる前に!!早く!!』


…ああ、そうか。


僕がまだ、こう言われる内は


まだ、出られるには絶望的なのだな。


ははは


ははははは


『出られるなら、とっくの昔に出てるんだよ!!!!!』


僕がそう叫ぶと、もう一人の僕は驚き、そして絶望した顔をしていた。


おそらくこいつは、僕よりも少し昔の僕なのだろう。


『……すまない。』


昔の僕に会釈しながら、僕は寺へと向かった。




歩いている途中に、木の陰からも色んな僕たちが見えた。


必死に蓮子とメリーに説明をしている僕。


恐らく。この時間の歪みについて話しているのだろう。


もう一組、三人で話し合ってるグループが見えた。


きっと、そいつらは脱出する方法を話し合っているのだろう。


僕が体験していないことから、それは未来の事か過去の事か分からなかった。


果てしなく未来まで居る蓮子も居る、


複数の蓮子に捕らえられて殺されているメリーも居る。


逆に複数のメリーに取り押さえられて、内臓を引きずり出されている蓮子も居る。


あそこの岩の陰では、僕と蓮子が裸同士で抱き合っている。蓮子が僕の名前を何度も読んでいる。


草の茂みの中では、僕とメリーが裸同士で抱き合っていた。生臭い匂いとメリーの甘い声が聞こえる。


更に歩いていくと、犯り疲れたのか、三人共裸でぐったりしている奴らも居た。


僕を食べているメリーも居た。蓮子も居た。


メリーとメリーとメリーと僕で愛し合っている奴らも


蓮子と蓮子と蓮子と蓮子と僕で愛し合っている奴らも


『私と霖くんの子供の為』と、過去の自分を殺して肉を食う蓮子と


『霖くんの子供を守るために、お母さんになるために』と言って過去の自分を殺して肉を食うメリーと


自殺した僕と


自殺した僕が並んでいる木と


木の横に大量の顔


縦に並んだ大量の顔


僕が最初に見た縦に並んだ女の顔は、これだったのかと思い出す僕


疲れた。


失神したメリーは、まだ起きそうにも無い。


『待って、霖くん』


『待ってよ、霖くん』


後ろには、二人の蓮子と三人のメリーがついてきている。


このまま


このまま僕は、本当に元の世界に返れるのだろうか。


『今ならまだ帰れる!!だから今すぐ引き返すんだ!!早く!!』


遠くでまた、僕の声が聞こえた。


おそらく、もっと別の時間軸の僕に声をかけたのだろうが、もうウンザリだ。


出口はどこだ


一体出口は、どこなんだと


僕は歩き、歩き続ける。


もう、何時間歩いたのだろうか。


時計を見ると、PM11時56分


もうすでに3時間は歩いたはずだ。なのに


時間はほとんど進んでいない、いや、


出発した時間に近いところに僕が居るだけなのだろうか。


寺は


寺はどこだと


僕は寺を求めて歩き続ける。


果たして、そこに答えがあるのかは分からない。


だが、こんな地獄のような場所で一分も長く過ごしたくない。


帰りたい


帰れる手がかりが、寺の中にあるのなら


僕は甘んじてそれを受けよう。


『寺は、もうすぐだぞ』


近くで、僕の声がした。


その声を聞いた蓮子は、『今の霖くん?』と言った。


僕は黙って、首を横に振った。


『そこじゃない、もう少し右だ。そうです、そっちです。』


また、声が聞こえた。


『やっぱり、さっきの声霖くんですか?』


『いえ、違います。』


だが、この声から察するに、


おそらく未来の僕が、助言しているに違いない。


『そこから真っ直ぐだ』


最後の僕の言葉により、僕は前に進んだ。


そして、そのまま真っ直ぐ進むと、


木の隙間から、前に来た寺の姿が見えた。


あった


あったんだ、ようやく、ここに、やっと


僕は、その寺を見て思わず


森から脱出するために駆け抜け、寺へと向かった。


そこには、先ほど聞いたお経の声が聞こえた。


更に今度は、太鼓と鈴の音も近くなっている。


『やった…!』


やっと、辿りついたのだ。


僕が求めていた、前に見たあの寺へ


『霖くん、何…?このお寺…』


『…ああ、これは僕が前に見た、』


『ただの廃墟さ。』


後ろから、もう一人の僕の声がした。


振り返ると、そこにはもう一人の僕が居た。


他の者に比べると、瞳の色が普通だ。


いや、僕が僕を観察する前に、だ


『…ただの廃墟とは、どういうことだ?』


『その言葉の通りだ。この寺は、ただの飾りと言うにはちと苦しいが、僕たちでどうにかできる代物では無いよ。』


『あの寺の者達を殺しても、何も起こらないと言うのか?』


『まぁね。試したから。あそこの中も時空歪曲が発生していて、殺してもまた、殺されなかった未来の坊さんがやってきてお経を読むだけで、殺しても殺しても切りは無い。』


僕の言葉を聴いた蓮子たちは、ヒソヒソと話し始めた。


『なら坊主の真ん中の女なら、と思っただろう君も、残念ながら、あの女こそただの飾りに過ぎないよ。』


『…どうして、分かる?』


『あれは飾りというよりは入れ物さ、殺せばまた、別の時間軸の誰かに乗り移られて、永遠に途切れることは無いだろう。あの女の前は僕、僕の前はメリーだったからね。』


殺しても、殺しても、代わりの者が入れ替わり、再び坊主の檻に閉じ込められる。


『…そもそもあれは、何のためにあるんだ?』


『そこまでは分からないよ。ただ、僕は今知ってる情報を過去の僕に伝えてるだけだ。』


目の前の僕は、よく見ると右腕の肘から先が存在しない。


食われたか、千切られたか、からがらに逃げ続けたようだ。


『また、トンネルも無理だったという事も伝えておこう。』


『トンネルって…私達が入ってきたトンネル?』


『ああ、あのトンネルは中こそ一本道だが、入り口と出口が同じで入っても出てもこの村にたどり着く。』


『……つまり、僕は、いや僕達は…』


『僕達だけじゃない。時間までもがこの村に囚われているのだ。』


この村は…一体なんなんだ?


駅の名前はきさらぎ駅。そのきさらぎ駅は昔何があった?


くそっ分からない。そもそも、そんな駅は知らない。


同じ名前の駅は知っているが、京都はおろか、近くに無い駅で、しかも漢字で書かれているはずだ。


『…教えてくれ、僕達は何でこんなところに居る?』


『それは…僕も未だに分からない。』


『じゃぁ太鼓…向こうに聞こえる太鼓と鈴の音は何だ!?』


『あれを鳴らしているのは、僕だ。また別の時間を過ごした僕達が、存在を証明するために鳴らし続けているらしい。』


太鼓の音が近づく


鈴の音も近づく。


時間と共に、音の正体が僕の目の前に現れる


太鼓を持っていたのは、僕で、鳴らしていたのも、僕で


鈴を鳴らしていたのも、僕だった。


そして一旦、彼らは音を鳴らすのを止め、僕達の方を見た。


『…まだ、僕達はここから出られないのか…』


一人がそうつぶやいて、また僕達が、音を鳴らして前に進んでいた。


頭がおかしくなる光景だった。


寺の方を見た。蓮子が血まみれのまま出てきた。


坊主の首をいくつか持って、立ちすくしていた。


『………』


坊主の首を持ったまま、彼女はどこかへと歩いていき、


そして、また寺から蓮子が出てきた。坊主と女の首を持っていた。


『………』


後ろで蓮子が、怯えている。


怯えながら、僕の背中をつかんでいる。


寺の中には何人居るのだろうか。


坊主の首がどんどんと出てきた。


あそこの中は、相当ヤバイ。


あの寺は、人間を誘き寄せる何かが存在しているようだった。


現にさっきまでの僕は、必死に寺を探していた。僕は、


この村の中で踊らされていただけだった。


『……はっ…ははっ…』


また、絶望が僕にのしかかる。


終わりだ、これで本当の終わりなんだ。


出られない。そう実感せざるを得ないと感じた瞬間だった。


太鼓の音、寺の中


全てが、僕達を閉じ込めるための鍵だったのだ。そして、その鍵は閉められた。


僕は、この地獄に永遠に閉じ込められる事になった。


後は、僕の知ってる手がかりは、


手がかりと言ったら……


……








『まて…、箱だ、あの箱は一体なんなんだ?』


森の中で見つけた箱、中に妙な漢字が書かれていた箱


あの箱は、一体何のためにあった。もしかすれば、


…いや、あれも僕達を閉じ込めるための鍵だったのだろう。


『……ああ、あの箱の事か。良く…思い出したな。』


すると、目の前の僕は真っ直ぐと僕を見た。


そういえば、どうしてこいつはこんなにも真っ直ぐな目をしているのだろう。まるで、この村から出られると確証しているかのようだ。


『あの箱は、僕が作ったこの村から脱出できる唯一の手段だ。』


『………』


……何?今、こいつは何を言った?


『これは最近気づいた事だが、僕達がいるこの村は、村であるが村では無いらしい。』


『だったら、何なのよ』


『ここは、誰かが作った結界の中だ。それも相当協力な奴のな。』


結界


こいつは、そう言った。


そういったのだ。



『…その、相当強烈な結界を、何故あの箱が壊せるというのだ?』


『結界は式だけで作られるわけでは無い。思念と力も必要している。だが、』


もう一人の僕は、腕時計を見た。


『…もう大して時間が無い。要点だけを言わせてもらうぞ。』


おい待て、時間が無いとはどういうことだ?


『簡単なことだ。とにかく、箱のあった場所まで戻るんだ。そして、箱を拾っても決して開けるな』


『えっ』


『その箱を開けずに持ってさえ居れば、あの結界を潜り抜けることができるだろう。中には式と結界の外の空気が入っているはずだ。』


今、なんていった?


『箱を…開けてはいけないのか?』


『ああ。開けてしまえば式を開放しても、すぐに結界につぶされるからな。だから、箱を閉めたまま進むんだ。』


『…もし、開けてしまったら?』


『ここから先は、もう何も言えないよ。時間も来てしまったからな。』


僕は微笑み、『頑張れよ』と声をかけた。


いや、ちょっと待て、ちょっと待ってくれ


その箱は開けてしまったのだと、言う前に目の前の僕はもう一人の僕に殺されてしまった。


色々説明してくれた僕は、殺され、今目の前に立っている僕は、普通の人間の目をしていなかった。


殺意の篭った、精神異常者の目をしていた。






僕達は逃げた。


これからどうすれば良いか分からず、ひたすら逃げた。


箱が、もう箱が無いのだ。


つまりは、僕が僕自身が出口を塞いでいたのだ。


『ねぇ霖くん!!どうすれば良いの!?霖くん!!』


後ろで蓮子の声が悲痛に響く。


やめてくれ、やめてくれ


今は、自分の自己嫌悪でいっぱいなんだ。死にたくて死にたくてしょうがないんだ。


今すぐに自殺をしよう。もう、こんなのはこりごりだ。


ああ、だからあそこに自殺した僕が並んでいたのか。そう実感した。


『終わりだ…。もう、僕達はみんな…死ぬんだ…』


蓮子にも、メリーにも気づかれない程小さな声で、僕はそうつぶやいた。


そして、ただ闇雲に足を動かしていた。


『きゃぁあああああ!!!』


後ろで、蓮子の悲鳴が聞こえた。


倒れる音と、殴る音、頭を石で潰される音がした。


『蓮子ちゃっ』


次に、メリーの頭に鎌が刺さった。何度も何度も刺さる音がした。


目の前には、メリーが蓮子を食べている。


もっとおくには、3人の蓮子が1人のメリーを撲殺している。


『うわぁあああ!!!あああああああああああ!!!』


複数の蓮子やメリーが、僕の後ろに居る蓮子とメリーを押さえつけた。


そして、殺して殺して殺しつくしていた。


『がああ!!』


途中で、蓮子に襲われた。石で僕の頭を何度も殴る。


僕の頭から血が流れる。腕に打撲を負う。


『やめろ!!』


そういって、僕は蓮子を突き飛ばした。


突き飛ばした先には、人を食べている僕が居た。


後ろで殺戮が行われているはずなのに、僕の前にはセックスをしている僕と蓮子が居た。


メリーも何人も居る。蓮子も何人も居る。僕も何人も居る。


彼らは幸せそうだ。現実を逃避することに決した彼らは本当に幸せそうだった。


その偽りの幸福を目の当たりにして、僕は思わず吐いてしまった。


膨大な嫌悪感が僕を襲い、遅い、鈍い絶望と苦痛が僕を襲ったからだ。





気がつけば、後ろに居た蓮子とメリーは全滅していた。


僕の後ろには、今誰も居ない。


ずっと一緒に居た蓮子達とメリー達は居なくなっていた。


そうだ、守れなかったのだ。


襲い掛かってくる、守るべき相手に成すすべも無く、みんな殺されていったのだ。


おしまいだ。これで…もう。


僕は、その場に倒れこんだ。


逃げ場の無いこの結界の中で、僕はどのように腐っていくのだろうか。


僕はどのように、死んでいくのだろうか。


僕に殺されるのだろうか、蓮子に殺されるのだろうか、メリーに殺されるのだろうか。


…もう、知ったことか。


僕に殺されるくらいなら、蓮子に殺されるくらいなら、メリーに殺されるくらいなら


ここで、息絶えた方がマシだ。


僕は、この人生と境遇に絶望しながら、


目の前の箱を握り締めながら、


ゆっくりと、視界を閉じていった……。


………





『箱!!!』


気づけば、箱は目の前にあった。


それも、一度も開かれていない状態でだ。


何故だ、何故、確かに僕は開けたはず…


………


『…なんだ、そうか、そういうことかよ…ははは…!』


今、ここに色んな時間の僕が複数居て、


人を殺す僕や欲望におぼれる僕が居るように、


脱出を目論み、箱を作った僕の複数居るはずだ。


つまりだ、箱はいくつもそこらじゅうに落ちているのだ。


『本当に…簡単な事だったんだな…!』


僕は、箱を拾い、すぐさまこの森から脱出を図った。








頭から血が止まらないが、今はそれどころでは無い。


先ほどとはもっと簡単に、出口を探すのは簡単だった。


木の少ない方に進めば、必然的に小屋のあった村の方にたどり着けるからだ。


僕は、森から脱出し、トンネルの近くまで走った。


そこには、僕の幸運か、蓮子とメリーが居た。


『あれ!?霖くん!?』


蓮子は、想像通りに驚いた表情をしている。


『ふぇえ!?霖くん!!怪我してますよ!!』


『どうしたの霖くん!森の中に何かが居たの!?』


ああ、この秘封倶楽部は、


まだ、何もかもが始まったばかりの秘封倶楽部だ。


今なら、この今脱出できるなら、


僕達は、何も知らないままに脱出できる。


『蓮子、メリー、帰るぞ!!』


僕は、問答無用で彼女達をつかんでトンネルに向かう


『ちょっちょっとぉ!!?』


未来の僕が言うには、この先から出れば、また村の入り口に戻されるそうだ。


これで、僕達がまた村の入り口に戻されていれば…


ジ・エンド。僕達の負けで、今度こそ完全な詰みになる。


『霖くん!ちょっと痛い!!痛いって!!』


蓮子が何か騒いでいる。だが、そんな事を言っていられない。


『今度こそ…お前達を守ってやる…!』


僕はそういって、トンネルの出口まで向かった。








トンネルの向こうは、最初に見えた光景があった。


きさらぎ駅、無人駅がポツリとそこに立っていた。


僕は、その光景を見て思わず泣きそうになったほどだ。


先ほどの地獄から開放されたみたいで、正直手の振るえが止まらなかった。


『…こんな所に戻って、どうすんのよ霖くん。結局は帰れないから村に行こうとしたんじゃない。』


『良いんだ。あの村は駄目だ。絶対に…』


『ちょっと霖くん。あの村で何があったのかいい加減…』


『それは、帰ってから教えるよ。』


僕は、線路の上に行き、進行方向の逆の方へと向かって、歩き出した。


『あっ、ちょっと!待ってよ霖くん!!』


蓮子とメリーは、悪態をつきながらも僕の後をついていった。


こんな不気味な所で、女子二人で居るのはやはり嫌なようだ。


『あーあ、何度も往復したんだから、あれこそ呪いの駅!って思ったのになぁ。』


『ううん。実際何かあったんだよ蓮子ちゃん。だって、霖くんの頭…』


『あっ…』


僕の怪我を見て、『ごめん』と蓮子は謝った。


『…いや、良いよ蓮子。僕も、乱暴に連れてきてゴメン。』


『もう、そんな積極的な男の子だったなんて、お姉ちゃん知らなかったんだからっ』


『そりゃぁ知らないだろう。君は僕のお姉さんじゃないんだから。』


今は、こんな他愛の無い冗談が言える。それはとても幸せなことだと気づいた。


『でもなー、この線路をずーっと歩いていくわけでしょ?ちゃんと帰れるわけ?』


『少なくとも、次の次の駅には駅前商店街がある。泊まれる場所もちゃんとあるはずだ。』


『その前に閉まらなければ良いんだけどねぇ。』


そういって、僕達は話をした。


何も他愛の無い、どうでも良い話を。


僕にとっても、たった数時間の出来事だったかもしれない。だが、


確実にあの村では、一年以上僕達は滞在していたに違いないのだ。それを、今、村の外まで出られた。


良かった。これで僕たちは、あの忌まわしい村から出られると、村の方に目をやった。


線路の向こう側に、真っ白の女が立っている。


『あーあ、足がぱんぱんになってきたなぁ、こりゃぁ私の足、筋肉痛になってるかもよ。』


真っ白の女が、僕達に近づいてくる。


『まぁまぁ、夏休みだから、明日はぐーたらしてようよ蓮子ちゃん。』


蓮子とメリーと僕以外の別の誰かが、僕達の方へと音も無く近づいてくる。


『そうねぇ、じゃぁ明日は皆で猫カフェに…って霖くん、どうしたの、後ろばっかり見て』


『…蓮子、メリー。…また、走るぞ』


『え?また?』


間髪居れずに、僕は走り出した


『あっ!!待ってよ霖くん!!』


後ろに居る得たいの知れない女は、僕達を捕まえにきているのだろうか、僕達を追いかけてくるスピードが上がっている。


いや、捕まえにきているに違いない。まるで背景に張り付いているかのように女は僕にだんだんと近づいてきている。


『走れ!!速く!!』


女が、こちらに手を伸ばしてきた。


駄目だ、間に合わない…間に合わない?


また、あそこに引き戻されるというのか?


嫌だ、絶対に嫌だ。


逃げなければ、早く、蓮子とメリーと共に脱出しなければならない。


だが、女の速さも増している。


一番後ろのメリーから2メートル程しか、距離が無い。


『メリー!!早く!!』


『まっ…待って…待っ…』


つかまる


メリーが、捕まってしまう。


彼女達だけでも、守らなければ、と


足を組み替えた瞬間、


『……っ!!?』


視界が、ぐわんと歪んだ。


まるで、何か境界線を越えたかのように。


蓮子とメリーも、何か視界に違和感を感じたらしい。


小さな悲鳴と共に、彼女達は倒れてしまった。


猛烈な頭痛と、吐き気と酔いが回る。


猛烈な違和感だ。まるで、そこが地獄の入り口のようだ。


気づけば、僕の視界もゆがみ始め、




意識を、失った。








目を覚ますと、僕は病院に居た。


きさらぎ駅、いや、本来の終点である駅の近くの病院に搬送されたそうだ。


『………』


医者を見かけ、医者に心配されながらも、質問を攻められた。


どうやら、医者の話によると、


僕達は、終点の駅のホームで気絶していたらしい。


気づかれたのは深夜の二時、搬送されたのは3時くらいだという。


全ては夢だったのだろうか?そう思って頭を掻いた


『痛っ…!』


頭に触れると、包帯が巻かれていた。


なんでも、石にぶつかって皮膚が切れたという傷だと言うのだ。


ちなみに、先ほど痛がったのは頭では無い。腕だ。


腕は、打撲と脱臼の二つをわずらっていた。


途中で相当無茶したようで。結構傷は酷いものみたいだ。


僕のこの傷で、全ては本当の事だということに気づかされた。


あの村は、呪いの駅は


本当に存在していたのだ。


『……そんな、嘘だろ…』


あの村が本当に存在していたのだとしたら、


あの村に残された、多くの蓮子とメリーと僕はどうなるのだろう。


永遠に、ずっとあの結界の中で暮らすのだろうか、そして、何度も絶望し、何度も殺人を犯すのだろうか。


駄目だ、考えれば考えるほど頭が痛くなる。


『…そうだ、蓮子とメリーは?どこに居るんですか?』


医者にそう聞くと、隣の病室に回されているようだ。


別に命に別状は無く、眠っているだけでしばらくすれば起きるだろうとの事。


僕は、その事を聞いてほっと胸をなでおろした。


だが、問題は


蓮子とメリーは、未だに目を覚ましていないということだ。




家に帰って、麻耶に怒られながらも泣かれながらも、なだめてご飯を食べて、


そして眠って、翌日経っても彼女達は起きず


三日程経って、駒田と駒田の妹と麻耶と一緒にデートし、喫茶店で飯を食べて、


一日を満喫した。だが、この時も蓮子とメリーは眠ったままだ。


そして一週間、紫から帰省命令が出て、麻耶と共に幻想郷に向かっている時も、


彼女達は、眠ったままだったのだ。







『……そう、そんな事があったの。』


紫は、幻想郷の星空を見ながら、遠い目でそう答えた。


『ええ。きっと、貴方の手に余る事だと思うのですが。』


あの結界は下手をすれば紫よりも強力な物に違いないだろう。


紫は、空間を歪ませる事はできても、時空を歪ませ、世界を混合させることはさすがに無理に違いない。


だとすれば、幻想郷の外の世界は、そんな恐ろしい結界で満ち溢れているのだろうか?


『…霖之助さん。』


『何でしょうか?』


『幻想郷は、何もそこまで特別な場所では無いのです。』


『…そうだろうな。この前の体験で嫌と言うほど実感したよ。』


幻想郷は、大妖怪が結界を村ごと包んでできた場所だ。


だが、その一例は幻想郷だけが行っている事ではない。


幻想郷のように、結界を張っている村はいくらでも存在するのだ。


『如月村も、幻想郷と同じ外の世界から逃げだした世界なのは間違いないわね。』


『…その如月駅は、どうして外の世界から隔離したのでしょうか。』


『如月村は、私の知っている部とすれば、昔は普通の村だったって事よ。』


『それが、どうして今のような牢獄に?』


『さぁ、分からないわ。ただ、あそこで集団殺人があったって事ぐらいよ。私が知っているのは。』


集団殺人


『私の憶測なんだけど、もともとは村を守る為に結界を張った。だけど、そこでアクシデントがあったの。』


『アクシデントとな?』


『それは分からないわ。だけど、私が思うにそこには何かが起こったはずよ。そして、結界の者の恨みが増幅し、結界も力を増した。』


何かが起こった


時空を歪ませ、目玉の無い坊主や顔の潰れた女か。


それと集団殺人。だとすれば、いくつか想像できることがある。だが、


どれが答えかどうかは、おそらく一生分からないだろう。


『だから、もう二度とそのような結界から守るように、幻想郷に帰る事もおススメするわ。だけど、彼女達の監視を続けるのもよし。彼女達が目覚めるまでがタイムミリットよ。』


『…とすれば、明日には蓮子とメリーは目を覚ますということだな?』


『ええ。そういうこと。』


『ならば、もう答えは決まっているさ。』


僕はそういって、立ち上がった。


『あらあら、また幻想郷が寂しくなっちゃうわ。』


『幻想郷にはまだ。僕の事を待っててもらうさ。』


幻想郷よりも恐ろしい場所がごまんとあるのならば、彼女達を放っておけない。


少なくとも、彼女達が自立できるまでは、もう少しだけ傍に居てやるだけだ。


『むにゃぃ……』


横で眠っている麻耶の頭を撫でた。


麻耶の顔は、気持ちよさそうに顔が緩んだ後よだれを垂らしていた。







~蛇足1~




『グッドモッォォニング!!!霖!!くん!!!!』


病院にいってみると、予想以上に元気いっぱいな蓮子とメリーが居た。


『なんて元気そうな奴なんだ。心配した僕はなんだったんだ?』


『一週間も無駄に寝てりゃ、そりゃぁ老人だって元気になるわよ!!』


あーなるほどな、確かに無駄に元気になっているような


『さぁ!!失われた一週間を取り戻しに行くわよ!!ハリィ!ハァァリィィイイイ!!』


『ごめん、僕、今日バイトなんだ。』


そういって、僕は扉を閉めた。


『待ちなさい霖くん!!このオカルト本によればね、蜜柑を四隅において真ん中にりんごを置けば結界を…』


ははっ、参ったなぁ。扉を開けて再び話をし始めたぞぉ。


それに正直、もう二度と結界を関連した出来事に遭遇するのはゴメンだ。


『蓮子、君は今病み上がりなんだろう?だったらしばらくは安静に、安全に残りの夏休みを過ごすべきだ。当然、君より重症な僕もね。』


『くっ!霖くんのくせに正論だと…!?言い返せないじゃないのよぉ!!』


『現実はそんなに甘くないのだよ。』


僕はそういって、病院を後にした。


蓮子とメリーが僕の後についてくる。


『だったら、甘い現実を食べに行かない?』


蓮子が、甘い声で僕の背中を握った。


『…ヒトデバックスに連れて行けという意味だな?』


『そうそう!!その通りなのでぇす!!』


『わぁ!!私キャラメルマキアートが良い!!キャラメルが良いですぅ!!』


なんだか、いつも以上にはしゃいでいるな。


まるで、何年ぶりもの苦しみから解放されてはしゃいでいるかのようだ。


『…ふぅ。』


本当に、この世界は恐ろしい。


あんな恐ろしい牢獄がいくつもあり、そして


いつもどおりの日常は、こんなにも美しい。


僕は、楽しそうな蓮子とメリーの今と共に、懸命に生きていくのだろう。


『仕方が無いな、奢ってやるよ。』


そう、僕の代わりも、彼女達の代わりもどこにも居ないのだから。




~蛇足2~


殺してやる 殺してやる


村の奴らは全員  殺してやる


村の中に居る奴ら全員 殺してやる


私を殺した奴らを  殺してやる


殺したところでは 終わらせない


何度も、何度も昔のお前も 未来のお前も


まとめて全員 殺してやる


苦しめて殺してやる 全員殺してやる


うらむ 恨む 怨み


かかかかかかかかかかかかかかかかかかかか



ビデオカメラの映像は、全てノイズで埋め尽くされていて、


途中から顔のような物が映り、顔の歪みと雑音と共に、このような音声が流れていた。


最後に真っ赤な映像が流れ、


このテープは、二度と再生できなくなってしまった。






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